予防と健康管理ブロック
〜うつ病と心電図〜
1.はじめに
うつ病とは現代社会の中で問題となっている病のひとつである。最近、ニュースやテレビの特集でも取り上げられ、いかに多くの社会で働く人が様々なストレスにおかされているかがうかがえる。今回、予防と健康管理ブロックでアスベストによる中皮腫と、社会からのストレスによるうつ病のどちらかのレポートを書くと言うことで、より興味のあるうつ病を選んだ。
2.キーワード
うつ病と心電図の2つのキーワードより論文を検索した。内容が難しく、論文2つをリンクさせにくかったため、うつ病を理解する上で必要であると考え、他の文献を引用した。『うつ病の診断と治療(江原 嵩)』からうつ病の概略について説明する。
3.選んだ論文の内容と概略
うつ病とは
江原 嵩
1)うつ病概念の歴史的変換
まず、うつ病とは、主症状とし、その異常症状が長く持続するために、医学的処置を必要とする病的な状態が存在することについては、ギリシャ時代より精神症状の一病型として把握され、melancholiaといわれていた。
フランス革命後の自然科学の発展は、医学界にも大きな変遷をもたらし、今日のうつ病外捻の土台を形成していった。19世紀半ば、精神症状が全く逆な躁病とうつ病が同一個人に周期的に反復発症する特異な経過に注目され、循環精神病、重複型精神病として取り上げられた。この躁病とうつ病が同一個人に出現する臨床症状の特徴と、周期的に反復して発生する長期経過は、他の精神障害では見られない特徴であり今日の躁うつ病概念の確立の最重点的要因となっている。このような感情障害の特異性をふまえた上で、Kraepelin(Kraepelin E:Psychiatrie.8Aufl.Barth,Leipzig,1913)は、症状学と経過学に重点をおき、精神分裂病と躁うつ病の分離を行った。Kraepelinの躁うつ病には、アメンチアや気分失調の状態は含まれてはいるものの
@ 躁病とうつ病が同一個人に起こる
A 主症状は感情障害
B
周期的、循環的、単発的経過
C 人格荒廃を残さず正常に復帰する
の特徴は、今日の躁うつ病の概念に引き継がれており、躁うつ病の概念の基本的特徴とされている。
しかし、Kraepelinは、精神障害の中より、精神分裂病を独立させることを主目的においていたため、躁うつ病およびその周辺群疾患には不鮮明な部分を残していた。
その後、Schneider(Schneider K:Die Schichtung des emotionnalen lebens nud Aufbau der Depressionszustande.Z f d ges Neur Psychiat,281-286,1921赤田 訳 精神医学)は、発生様式を検討し、「純粋な、動機のない、内因性のうつ病」「純粋な反応性のうつ病」とに分類すると同時に、躁うつ病としての明確な疾患概念を与えた。うつ病発生に関する内因性と反応性の問題は多くの論議を招いたが、誘因には多大の目がそそがれ、
内因性との対比および相互性についての考察が、20世紀中期のうつ病研究の最大のトピックとなった。すなわち、引っ越しうつ病、ねこそぎうつ病、荷おろしうつ病、実存うつ病、喪失うつ病、神経症性うつ病、逃避型抑うつなど名称で状況論と発生の関係が分析された。
笠原と木村(笠原 嘉、木村 敏うつ状態の臨床分類に関する研究。精神経誌)は、『病前性格―発病状況―病像―治療への反応―経過』を組み合わせて病型分類を試みているが、このような多目的の関連性よりのうつ病分類やうつ病概念の設立は、今日のうつ病概念の設の条件となっている。すなわち、1960年代よりの自然科学や統計処理方法の発展に伴って、遺伝、病前性格、病像、経過、生化学的研究など、うつ病の関係のある多くの分野における研究の結果が蓄積されるに従って、その結果を相互に有機的に結合させたうつ病概念確立への努力がなされてきた。その結果、今日用いられているDMS-VやICD―9に見られるうつ病概念や分類へと変遷してきた。
2)うつ病の疫学と性格・誘因
うつ病および抑うつ状態症例が年々増加の傾向にあり、世界保険機構の専門医によるうつ病患者数概算では、約3%との数字があげられている。近年はもっと増加している。Kielholz(Kielholz P体格と性格―体質の問題および気質の性格によせる研究)による、オーストラリア、ドイツ、イタリア、フランス、スイスの一般医に対するアンケート調査では受診する全患者の10%に抑うつが見られたと述べられている。この多くは仮面うつ病や抑うつ神経鞘などであり、内因性うつ病の有病率はこのように高い有病率ではない。
(@)有病率
抑うつ症や症候性うつ病などを除いた躁うつ病や内因性うつ病の一般集団における発病危険率について、浅香は、日本の論文では0〜0.87%、中間値0.26%であり、ヨーロッパの論文では0〜1.2%、中間値0.31%とまとめている。このように、内因性躁うつ病発病率は、概ね0.3%前後と考えられている。
躁うつ病の発病危険率は、精神分裂病が日本では0.82%ヨーロッパでは0.83%とされているのに比べると約1/2の低い数値である。このような躁うつ病危険率は、内因性うつ病および内因性躁うつ病で医療機関を受診した症例を対象として計算されたものであるため、軽症うつ病、仮面うつ病、抑うつ神経症、症候性うつ、などの主主の抑うつ状態を含んでいない。もし、内因性感情障害以外の種々の抑うつ状態や軽症うつ病を加えるならば、その危険率は1〜2.5%、もしくはそれ以上となるであろう。
(A)発病年齢
うつ病および躁うつ病の発病年齢は広く分布している。すなわち、非定型症状や群発的病相周期などの非定型な病型と経過を呈する10歳前後に発症する両極型躁うつ病より90歳前後の超高齢者に発症するうつ病に至るまで、躁うつ病の発病年齢は極めて広いものであり、好発年齢を規定することはできない。だが、発病年齢の研究は多く、初発年齢および発病年齢について、発病頻度の比較的高い年齢は決定されている。すなわちAngst(Angst J,Baastrup P,Grop P,Hippus H,Poldinger W&Weis P:The course of monopolar depression and bipolar psychosis.Psychiat Neurol Neurol Neurochir)は、両極型うつ病では40代にピークがあり、いわゆる「退行期うつ病」と診断される症例数が多いために、単極型うつ病の初発年齢が高くなると述べている。以上は初発年齢についての研究であるが、躁うつ病は再発を繰り返す疾患であるため、年齢が上がるに従って,症例数は累積されることになり、うつ病症例数、入院症例数が最も多く見られる年齢は、40〜60歳と考えられている。
(B)男女差
男女差がないとの報告もあるが、一般的には女性症例が多いとされている。
Angstは、うつ病発端者よりみた家族遺伝研究おいて、同胞と両親の発病頻度を性別に調べている。両極型躁うつ病では、男女差は見られないが、単極型うつ病の家族内に見られるうつ病発病頻度は、兄弟3.2±1.84%、姉妹17.6±4.27%、父親2.4±1.7%、母親15.3±3.9%、同胞と両親のいずれにおいても、女性にうつ病症例が多いと報告している。
(C)遺伝負因
家族研究では、発端者の両親や同胞のうつ病発症率を調べる方法がとられており、両極性躁うつ病と単極性躁うつ病に分けて数値が示されている。
発端者の病型 |
親の発病率 % |
同胞の発病率 % |
親同胞の合計の発病率 % |
両極型 |
15.0 |
22.0 |
19.0 |
単極型 |
12.5 |
13.5 |
12.5 |
それによれば、単極性躁うつ病よりも両極性躁うつ病の方が、両親と同胞のいずれにおいても高い発病率を示している。すなわち、単極型うつ病においても遺伝傾向は存在するものと考えられるが、両極型躁うつ病のほうが更に遺伝傾向は強い。
(D)性格と状況因
|
男 % |
女 % |
仕事の過労 |
20 |
2 |
職務異動 |
20 |
0 |
異性関係 |
2 |
3 |
家庭内葛藤 |
4 |
14 |
近親の病気・死 |
10 |
12 |
経済問題 |
12 |
5 |
精神的打撃 |
16 |
10 |
身体疾患 |
8 |
6 |
妊娠・出産・月経 |
0 |
22 |
対人関係 |
0 |
8 |
うつ病の性格および誘因の関連性については、遺伝負因の強い両極型躁うつ病では性格や気質との関連性が追求されており、遺伝負因の少ない単極型うつ病では性格と誘因の両面から調べられている。また、性格や状況因に強く関連している家族研究においては、躁うつ病の発症年齢が10歳代から70歳代にまで及んでいることから、性格形成に関連の深い一次家族についての考察と、誘因や状況と関連の深い結婚後の二次家族の問題も取り上げられている。
躁うつ病の性格や気質との関連性については、Kretschmerの「肥満体型―循環気質―循環病質―躁うつ病」との関連付けが有名である。
2―1)臨床症状
うつ病の一般的な臨床症状としては、精神症状と身体症状の2つがあげられる。
精神症状としては、感情障害や抑制症状、思考障害や不安や焦燥などがあげられる。
感情障害は95%にみられる。(100%ではない。)
抑制症状とは、意欲および欲動の渋滞のことであり、精神運動抑制とよばれる。
思考障害は、思考過程の障害(思考抑制)と思考内容の障害(抑うつ思考)よりなるが、後者には、罪責的、貧困的、心気的内容の病的な思考が含まれる。それらは、妄想に発展していることもあり、退行期や老齢者のうつ病では妄想になることが多い。
身体症状としては、睡眠症状や消化器症状、心血管系症状、疼痛などがみられる。
睡眠障害は、うつ病患者の82〜100%に発症し、老人性うつ病では、睡眠障害のみを訴えて受診する場合も多い。
睡眠障害には、就眠障害、夜間覚醒、熟眠障害、などの臨床形態などが見られる。
消化器症状としては、食欲不振、味覚障害、口渇、便秘、悪心などである。
呼吸困難、胸内苦悶、胸部圧迫、心悸亢進、頻脈、期外収縮、血圧上昇、狭心症様症状なども40〜80%認められている。とくに動脈硬化症と合併するうつ病者では、狭心症様症状の発生頻度が高いが、心電図検査や心機能検査では異常所見を確認し得ない場合が多く、心血管系障害の診断に苦慮する。また、各種ブロックや期外収縮などの心伝導障害の既往歴を有する症例では、うつ病期には心伝導障害は憎悪し、うつ病症状の改善に伴って無治療で消失していく経過も多くみられる。
心血管系の発生機序については、不安による交感神経機能亢進やアドレナリン機能亢進との関連で考察されている。それゆえ、心血管系治療薬剤による治療が行われなくとも、抗うつ剤および抗不安剤によるうつ病の治療の改善に伴って消失するものではあるが、抗うつ剤には心毒性の強い薬剤も多いため、その使用によっては心機能の詳細な検査がなされてなければならない。
また、近年、急性心筋梗塞や心不全などの心疾患患者に多くうつ病が合併し、その予後に大きく影響することが知られてきた。欧米では、高血圧症や高脂血症、喫煙などと並んで、心疾患を悪化させる独立した危険因子と認識されている。例えば、心筋梗塞後に発症するうつ病発症率は30〜40%とされ、いずれの報告でもうつ病患者は被合併患者に比べて死亡率が2〜4倍高い。
2―2)臨床における心電図
■心電図と不整脈
ほぼ同じスタイルのトゲが出ているが、QRS波の出る間隔が不規則で乱れが認められる。
R波の間隔は、ほぼ規則正しく並んでいるが、異なったスタイルのQRS波が混在しているのが認めらる。 異なったスタイルのQRS波は、普段と異なった場所から電気の興奮が起
こっているか、あるいは興奮の伝わり方が普段と異なっていることを示し異常である。
また、三環系抗うつ薬治療によりRR間隔は短縮する。
心臓病患者に合併したうつ病へのアプローチ(文献1)
山田武彦 高橋衛 的場芳樹 松本延介 田畑隆文
心筋梗塞を併発したうつ病 (文献2)
島田啓子 小林聡幸 塩田勝利 高田早苗 加藤敏
うつ病は高血圧症や高脂血症、喫煙などと並んで、冠動脈疾患や心不全の病態や予後を悪化させる独立した危険因子である。しかし、循環器科ではその診断や適切な対応がなされてないことが多い。一方、多くの患者は精神科受診を受け入れないし、心症状の見極めは精神科では困難という事情もある。親友会島原病院では、心臓病にうつや不安など精神的な問題を合併した患者に循環器科医が、心身両面からアプローチを試みている。30分予約制の心療内科外来を開設し、カウンセリングと薬物治療をおこなっている。今回、心臓病にうつ病が合併した28名と非心臓性胸痛などの心臓神経症7名を検討したものを取りあげた。心臓疾患の内訳は、発作性不整脈8名、心室性期外収縮6名、労作性狭心症7名
、発作性不整脈3名、心不全4名である。発作性不整脈や発作性不整脈、ICD(体内式除細動器)うえ込み患者などでは、症状がいつ起こるかわからないため(予期不安)再発性の狭心症や慢性心不全では手術や死への恐怖心、再発などへの無力感などのためうつ病を引き起こしやすいと考えられる。臨床心理学では標準的なロジャース式の受容、共感、保証といった基本的なカウンセリングに加え、患者との会話に重んじるナラティブ・セラピーや否定的自動思考を適応的なものに変える認知療法は有用な精神療法であると考えられ、ケースごとにオーダーメイド的に選択している。心臓病に伴う患者心理を把握し、その予後を悪化させるうつ病に対応できる知識と治療スキルが循環器科医にも求められている。今回は、心臓病とうつ病の合併につき症例をあげての検討についてである。
症例1では、発作性心房細動、再発性の狭心症発作により身体症状が前面にでたうつ病(仮面うつ病)である。生活は保たれていて、自殺企図などの精神状態は見受けられないがQOLは明らかに低下していた。繰り返し行われる心臓カテーテル治療は一時的な安心感を与えることで無力感を伴う事が多く、心身両面の配慮が必要であった。
症例2ではCCUで急性のうつ状態に陥った患者である。手術や死への恐怖が直接的な原因であっても、過去のトラウマ、元来の性格、家族の問題、仕事への執着などが相まって患者心理は複雑であることが多い。重症患者に短期間でそれぞれの問題を取り上げることは困難であり、また必ずしも必要ともいえない。本人の訴えを傾聴することによって、気持ちが落ち着くことは多い。
次は疾患別に概観する。
急性心筋梗塞・・・Carneyらは急性心筋梗塞後のうつ状態を40〜65%、大うつ病を16〜22%で認めている。期間としては、心筋梗塞後8〜10日後に典型的なうつ症状を呈する患者は45%、大うつ病性障害の患者は18%、心筋梗塞から3ヶ月後では、典型的なうつ症状を呈する患者は33%、大うつ病性障害の患者は15%であるとの報告もある。他の症例では、中等度のうつスコアを示した群でも死亡率は上昇していたとの報告もある。米国でも精神的アプローチの有用性が検討され、2481名の急性心筋梗塞患者の39%にうつ病の合併を認め、認知行動療法、カウンセリング、薬物療法が試みられた群と通常治療群とに無作為に割り付けられた。平均29ヶ月経過観察され、認知行動療法群でうつスコアやQOLは有意に改善したものの、冠動脈イベントや予後の明らかな改善は認められなかったという。このうち、急性心筋梗塞後の心不全の合併は43%で認め、そのうつ合併率は43%で、非心不全患者のうつ合併率(36%)よりも有意に高かった。その他での症例でも冠動脈疾患の発症率や死亡率において、うつスコアが高い方が低い方よりはるかに高かった。
冠状動脈バイパス(CABG)・・・Connerneyらは、309例のCABG術後患者のうち退院後20%のうつ病合併を%発表した。退院後の死亡、心不全、再入院などのイベントは非うつ病患者と比較して男性で3.5倍、女性で2.5倍多かった。また、他の症例でもうつスコアが高い方が死亡率が高いとの症例が出ていた。
発作性心房細動・・・発作性心房細動患者群では、健康人より有意に低いQOLを示す。動機や胸痛などの不快な症状がいつ来るかわからないという状況から、恒常的心房細動よりも不安感や恐怖感が起こりやすいと考えられる。
体内埋め込み式除細動器(ICD)・・・ICDは様々な重篤な心疾患患者を救命しているが、PTSDなどの精神疾患を合併しやすい事も報告されている。これは、突然死への恐怖感といつ発動するかわからない電気ショックへの恐怖感への予期不安からなる。ICD植込みのみならず患者心理への配慮を十分行う必要がある。
4.考察
今回、うつ病についてレポートを書くきっかけとなった、授業中に見たビデオを通じて、現在、社会の中で問題になっているうつ病について学ぶことができた。今日の経済が不景気なことから、会社の従業員に対する過重労働やリストラなど様々なストレスがかかり、うつ病を発症しやすくなる。現代に起こりやすい病気であるからこそ、労働者に過重な負担がかからないような規約を決め、予防することが求められていると思う。
また、うつ病と心電図についてのレポートを書いて、うつ病の起因には、現在問題になっている社会の中でのストレスに関する事以外にもあるということがわかった。一般的にストレスと言うと、何かイライラすることがあったり、日常生活していて知らず知らずのう
ちに不満や欲求をため込んだりということを思ったりするだろう。しかし、今回のケースでは、手術や病気を発症することにより、不安や恐怖心からうつ病を合併しうると言う事例だった。現在の日本では、海外とは違いこのような事例はほんのわずかだと言われている。しかし、このような事例は、気付いていないだけで起こっている可能性も十分に考えられる。医療従事者は、手術などで疾患を治すことも大事である。だが、それと同時に、今日の医療に求められているインフォームドコンセントにより患者を安心させることや、医療面でなくとも患者の心を落ち着かせる、そういったことも大事だと僕は考える。
まとめ
今回、うつ病について調べてみてうつ病とはどういったものか、そしてどういう事で起こってしまうかなど様々なことを知れて良かったと思う。また、今回、うつ病と心電図に関するキーワードで検索し、文献を調べたがうつ病と心電図が絡んだものがみつからなかった。それは、うつ病という病において、不整脈などが現れる事もあるし、反対に何の変化もないこともあるからで、見落としてしまうこともあるそうだ。
参考文献 うつ病の診断と治療 新興医学出版社
京都医学会雑誌53巻1号 P15〜20
精神科治療学18巻12号 P1425〜1431
www2.health.ne.jp/